大型放射光施設 SPring-8

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高温高圧技術を用いた窒化ガリウム単結晶の合成に成功― 青色発光素子材料の開発における新手法の確立 ―(プレスリリース)

公開日
2003年10月27日
  • BL14B1(JAEA 物質科学)
日本原子力研究所関西研究所放射光科学研究センターの内海渉主任研究員らの研究グループは、2220℃以上の高温、6万気圧以上の高圧下で窒化ガリウム(GaN)を融解させ、それを徐々に冷却することによって窒化ガリウム単結晶を得る手法の開発に成功した。

平成15年10月27日
日本原子力研究所

 日本原子力研究所(理事長 齋藤伸三)関西研究所放射光科学研究センターの内海渉主任研究員らの研究グループは、2220℃以上の高温、6万気圧以上の高圧下で窒化ガリウム(GaN)を融解させ、それを徐々に冷却することによって窒化ガリウム単結晶を得る手法の開発に成功した。

 窒化ガリウムは、青色発光素子*の中心的役割を担っているのみならず、次世代超高速光通信や携帯電話等のキーデバイスとなる高出力・高効率トランジスタ等への応用も見込まれている重要物質である。しかしながら、窒化ガリウムは高温で分解してしまうため、融液の冷却による一般的な単結晶育成法が利用できず、数mm以上の大きな単結晶を育成することが難しい。単結晶試料はその基本的特性の理解のために重要であるほか、インチサイズの大型窒化ガリウム単結晶には、エピタキシャル成長*用基板としての大きな潜在需要があり、気相成長法*やフラックス法*などの各種手法による開発競争が続いている。

 本研究グループは、SPring-8原研ビームラインBL14B1における高温高圧その場X線回折実験により、6万気圧以上の圧力下では、窒化ガリウムはガリウムと窒素に分解することなく窒化ガリウムのままで融解し、その融液は温度を下げると可逆的に窒化ガリウム結晶に戻ることを明らかにした。この事実は、高圧下で窒化ガリウム組成の融液を徐々に冷却して窒化ガリウム単結晶を育成する新しい手法へと導く。実際に、この手法により透明な結晶が得られ、ラマン散乱*やX線回折などの測定の結果、結晶性の高い窒化ガリウム単結晶であることが確認された。

 今回の高温高圧技術を用いた新しい窒化ガリウム単結晶育成法は、必要とされる合成時間が比較的短時間であることや別元素の添加が容易であるという特長をもち、窒化ガリウムをベースにした多様な物質への応用も可能である。基礎物質科学への貢献や、光・エレクトロニクス産業の基盤技術としての展開が期待される。

 この成果は英国科学雑誌Nature Materialsオンライン版10月26日号で先行発表され、Nature Materials 11月号に掲載される。(論文題名" Congruent melting of gallium nitride at 6 GPa and its application to single-crystal growth"「6万気圧における窒化ガリウムの一致溶融およびその単結晶育成への応用」)

 

<本件に関する問い合わせ先>
日本原子力研究所 関西研究所 放射光科学研究センター
極限環境物性研究グループ  内海 渉
Tel: 0791-58-2632  FAX: 0791-58-2740
電子メール: utsumi@spring8.or.jp
原研ホームページ:http://www.jaea.go.jp/jaeri/no_flash.html

<SPring-8についての問い合わせ先>
(財)高輝度光科学研究センター
広報部長  原 雅弘
Tel: 0791-58-2785  FAX: 0791-58-2786
電子メール: hara@spring8.or.jp

 


<補足説明>

背景
 窒化ガリウム系半導体は、青色から紫外光の発生に対して優れた特性を有し、これを用いた短波長発光デバイスの長寿命化や発光強度化を目指した研究が精力的に行われている。デバイス性能向上のためには結晶中の転位*が少ないことが必須であるが、現在の窒化ガリウム系デバイスはサファイアなどの異種結晶基板上に成膜されているために、格子不整合や熱膨張率差に起因する多くの転位を含んでいる。中間層の形成技術によって転位密度の低減がはかられているが、さらにこれを飛躍的に減らしデバイスの高機能化をめざすには、窒化ガリウム基板を用いたホモエピタキシャル成長によるデバイスを作製する必要があり、この目的に使用できる良質かつ数インチサイズ以上の大型の窒化ガリウム単結晶が切望されている。しかしながら、一般に窒化物は高温で構成元素に分解してしまい、シリコンなどで行われているような融液を徐々に冷却することによって単結晶を得るという一般的な単結晶育成手法が利用できない。これまでの研究では、気相成長やフラックスを用いる方法などで窒化ガリウム単結晶の合成が試みられてきたが、成長速度や品質などにまだ多くの課題を残している。

今回の成果
 今回開発した手法は、圧力を加えることによって分解を抑制し、高温高圧下で窒化ガリウムの融液を得て、それを時間をかけて冷却することによって窒化ガリウムの単結晶を育成するものである。大型放射光施設(SPring-8)原研ビームラインBL14B1に設置されている高圧発生装置を用いて、高温高圧下での窒化ガリウムの振る舞いを直接観察し、その分解、融解、凝固のプロセスを明らかにした。その結果、6万気圧以上の高圧下では、窒化ガリウムは分解することなく、窒化ガリウムとして約2220℃で融解する(一致溶融とよばれる)ことが明らかになった。この事実にもとづき、6万気圧、2300℃から毎分1℃の速度で試料を冷却することによって、透明な窒化ガリウム単結晶が合成された。X線回折や各種分光測定の結果、結晶性の高い試料であることが明らかになっている。現在、試料のより詳細な分析とともに、単結晶サイズの大型化をめざした研究が進行中である。

研究の詳細

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図1.放射光を用いた高温高圧下X線回折実験装置概念図

図1は、SPring-8の原研ビームラインBL14B1に設置されている高温高圧発生装置の概念図である。窒化ガリウム試料は立方体形状の高圧発生セルに充填され、全方向から超硬合金製の加圧部品(アンビルと称される)により圧縮される。SPring-8の高輝度放射光を用いることによって、高温高圧状態にある試料の様子をX線回折の手法により直接観察することができる。

fig2.gif
図2.窒化ガリウムの圧力温度相関係図


 図2は、今回の研究で決定された窒化ガリウムに関する圧力温度相関係図である。6万気圧以下の圧力では、高温で窒化ガリウムは液体ガリウムと窒素に分解してしまい、この状態から温度を下げても、液体ガリウムが回収されるだけである。これに対し、6万気圧以上の高圧下では、そのような分解反応が抑制されて、約2220℃以上で窒化ガリウムとして融解する。すなわち、6万気圧以上の高圧をかければ、窒化ガリウムはガリウムと窒素に分解することなく窒化ガリウム液体として存在でき、それを徐々に冷却することで窒化ガリウム単結晶が得られることになる。

fig3.jpg
図3.本手法で得られた窒化ガリウム単結晶の走査型顕微鏡像


 図3は、6万気圧の高圧下で2300℃まで昇温して窒化ガリウム液体を得たのち、圧力を保ったまま毎分1℃の速度で試料をゆっくり冷却することによって得られた窒化ガリウム単結晶の走査型顕微鏡写真である。本研究に用いた高圧装置の試料容器サイズの制限により、今回得られた単結晶試料は100μm程度の大きさであるが、合成ダイヤモンドの生産にすでに使用されている大型高圧装置を用いることで、数cmクラスの窒化ガリウム単結晶が育成可能であると期待される。


<用語解説>

 

(本文中*のついた用語)

青色発光素子
 青色から紫外領域の波長の発光を可能にする固体半導体素子。窒化ガリウム系物質を用いて、発光ダイオード(LED)や半導体レーザー(LD)の熾烈な開発競争が繰り広げられている。戻る

エピタキシャル成長
 ひとつの結晶が、他の結晶の表面にある定まった方位関係をとって成長すること。半導体デバイスの製造においては、結晶を構成する元素を含む数種類のガスを送り込み、基板上で熱分解させて、結晶成長を行ない薄膜を形成する。基板として形成薄膜と同じ物質を用いるのがホモエピタキシャル成長。戻る

気相成長法
 サファイアや砒化ガリウム基板上に、ガリウム、アンモニアガスなどを送り込み、加熱し熱分解させることで窒化ガリウム単結晶を得る方法。戻る

フラックス法
 ナトリウムなどを融剤(フラックス)として用いて構成元素を溶解させ、温度圧力を制御することによって、窒化ガリウム単結晶を析出させる方法。戻る

ラマン散乱
 物質にレーザー光を照射したとき、照射光の波長からわずかにはずれた波長で光が散乱されること。ラマン散乱を測定することで、物質の構造や構成原子の結合に関する情報が得られる。戻る

転位
 結晶における格子欠陥の一種。結晶内のある線に沿って起こった一連の原子の変位のことをいう。転位を少なくすることが発光デバイスの性能向上の必須条件である。戻る

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