大型放射光施設 SPring-8

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SPring-8利用者とJASRI研究員が金属学会会報「まてりあ」の第7回論文賞「まてりあ論文」(2009年9月)を受賞(トピック)

公開日
2009年09月15日
  • 受賞

 日本金属学会では、日本金属学会会報「まてりあ」に掲載された論文中、過去3ヵ年の論文について、学術上または技術上特に優秀な論文でかつその分野の進歩発展に顕著な貢献した論文に対し、論文賞「まてりあ論文」を贈り、表彰しています。

【受賞者】
 松下智裕(JASRI)
 郭方准(当時:JASRI、現:中国科学院大連化学物理研究所)
 安居院あかね(日本原子力研究開発機構)
 松井文彦(奈良先端科学技術大学院大学)
 大門寛(奈良先端科学技術大学院大学)

【研究業績】
 「光電子ホログラフィーと立体原子写真法による原子配列の観測」

【研究内容】
 原子配列を観測することは、生命科学やナノテクノロジーなど、現代の科学にとって非常に重要な意味を持つ。現在は電子顕微鏡(SEM/TEM)や、走査型トンネル顕微鏡(STM)などの測定法があり、SPring-8でもX線吸収微細構造(XAFS)やX線回折(XRD)などの方法が使われ、精力的に原子配列の研究が行われている。松下主幹研究員らのグループが研究している光電子ホログラフィーや立体原子写真法は、今までにない特徴を有する原子配列の測定法である。これらの方法は、光電子分光、光電子回折をベースとした測定法であり、特徴としては、「初期モデルが不要で、直接的に原子構造が求められる」「特定の元素の周囲の立体原子配列を測定できる」「電子雲ではなく、原子核の位置を測定できる」「完全な周期構造を必要としない」「表面近傍に感度がある」「電子構造(スピンなど)の情報を同時に観測できる」などが挙げられる。
 「立体原子写真法」はSPring-8の軟X線固体分光ビームラインBL25SUに設置された二次元表示型角度分解型光電子分光装置と、ID25の円偏光を利用する。光をサンプルにあてると、光電子が励起されて、飛び出してくる。これを上記の装置を使って、光電子の放出角度分布をスクリーンに投影すると、これがほぼ原子配列の投影像になっている。右ネジ円偏光、左ネジ円偏光を照射して得られる2枚の画像は、立体原子写真になっており、左右の目で見ると原子配列が立体的に見える。この方法は計算処理なしに、直接的に原子配列が立体的に見えるのが特徴である。
 「光電子ホログラフィー」では、光電子(もしくはオージェ電子)の放出角度分布をホログラムとみなして、数値的に解析し、立体的な原子配列を得る(再構成)。再構成の理論は、1985年にフーリエ変換をベースとした理論が提唱され、その後、多重エネルギー法などに拡張されてきた。多重エネルギーすなわち、電子の運動エネルギーを変えながら、複数のホログラムを測定する必要があり、膨大な測定時間を要する上に、原子配列を鮮明に得ることは難しかった。これは、従来の再構成理論に原因がある。そこで、同グループは、電子が散乱されるプロセスを考慮し、フーリエ変換を使わない、新たな再構成理論を構築した。この理論を使うと、多重エネルギーは必須ではなくなり、単一のエネルギーで測定したホログラムから、原子配列を得ることができる。BL25SUで測定したデータから、原子配列を再生することに成功し、理論の有効性を実証した。この方法では、円偏光は不要であり、また、オージェ電子も利用できる。さらに従来型の電子エネルギー分析器や実験室光源を利用して得られたホログラムからでも再生できるため、応用範囲は広い。
 このように「立体原子写真法」、「光電子ホログラフィー」は、それぞれ特徴を持っており、状況によって使い分けるのが良い。この新たな測定法は「不純物」や「吸着子」などの周囲の原子配列を測定できる方法であり、新たな原子配列測定法として高いポテンシャルを有している。

授賞式 右から大門寛氏、松下智裕氏、郭方准氏、松井文彦氏