大型放射光施設 SPring-8

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SPring-8で科学鑑定に特化した支援グループを創設-「ナノ・フォレンシック・サイエンスグループ」が活動を開始 -(プレスリリース)

公開日
2011年12月02日
  • 科学鑑定

2011年12月2日
財団法人高輝度光科学研究センター

 大型放射光施設SPring-8*1で利用促進業務を行っている登録施設利用促進機関である高輝度光科学研究センター(JASRI、白川哲久理事長)は、次世代のフォレンシック・サイエンス*2(法科学)分野をリードする研究開発グループ「ナノ・フォレンシック・サイエンスグループ」を2011年12月1日に創設し活動を開始しました。
 SPring-8では、放射光が利用され始めた1997年以来、産学官の研究機関に順調に利用されています。犯罪捜査の分野では、「和歌山カレー毒物混入事件」の証拠資料をSPring-8で分析したことが世間の注目を浴びましたが、兵庫県警察本部科学捜査研究所においては、大型放射光研究科を設置し、警察庁の指導のもと、全国の重要凶悪事件の証拠物件についての鑑定を担当し、種々の事件解明に貢献しています。
 昨今の科学鑑定では、証拠資料等をナノレベルで超微量分析することが求められる場合があり、極微量の試料からでも解析が可能な先端技術が必要となっています。SPring-8では、加速器科学や先端計測技術の研究開発を推進し、世界最高性能を持つ高輝度X線を用いて、ナノレベルといった極微量の試料からも元素の種類を特定することが可能な蛍光X線分析や吸収X線分光といった先端計測技術を有しています。
 これら技術を活用し、極々超微量分析への進化を牽引する先進的分析科学・鑑定科学を行う「ナノ・フォレンシック・サイエンスグループ」を他の放射光施設に先駆けて創設し、SPring-8で新たに取り組むことにしました。このグループでは、新しい分析手法の開発や新しいデータベースの開発などを行い、鑑識科学における分析精度と放射光の利活用に革新をもたらし、安全・安心な社会実現に貢献することを目的とします。

1. 創設の背景
 世界最大・最高性能の第三世代大型放射光施設SPring-8は、放射光が利用され始めた1997年以来、大学や公的な研究機関は勿論、様々な分野の企業による研究開発に利用され、現在に至っており、順調に利用されてきています。
 一方、犯罪捜査の分野では、和歌山カレー毒物混入事件の証拠資料を和歌山地方検察庁が大学教授らに依頼し、SPring-8を利用した分析が行われ、後に、和歌山地方裁判所が、別の大学教授らの鑑定人に依頼し、独自にSPring-8で再鑑定を実施し、世間の注目を浴びました。
 その後、犯罪捜査に関しては、兵庫県警察本部科学捜査研究所が大型放射光研究科を設置し、警察庁の指導のもと、全国の重要凶悪事件の証拠物件についての鑑定を担当し、種々の事件解明に貢献しています。
 一方、SPring-8は、加速器科学、X線光学、先端計測技術の研究開発を推進し、世界で最も安定なナノサイズの高輝度X線ビームを創り出す放射光施設へと進化し、その結果、100ナノメートル領域の蛍光X線分析、吸収X線分光、構造分析など、提供可能な様々な先端計測技術において革新的進歩を遂げました。
 JASRIは、これらの放射光ナノアプリケーションを活用し、科学鑑定においてこれまで不可能であったミクロからナノレベルの極々超微量分析への進化を牽引する先進的分析科学・鑑定科学を行う「ナノ・フォレンシック・サイエンスグループ」を創設し、SPring-8で新たに取り組むことにしました。

2. グループのメンバーについて
 和歌山カレー毒物混入事件の鑑定人、放射光X線分析の専門家、警察・科学捜査研究所OB、刑事分野の専門家から構成されています。

3. 研究内容と今後
 この「ナノ・フォレンシック・サイエンスグループ」は、SPring-8放射光を利用したナノ・フォレンシック・サイエンスに関する新しい分析手法の開発や、ナノ・フォレンシック・サイエンスに関する新しいデータベースの開発などを行います。
 また、フォレンシック・サイエンスの分野は、極めて広範囲な分野であることから、研究対象に応じて、SPring-8等の特徴的な種々のビームラインの活用を考えています。


《参考資料》

(1)押収された麻薬等の微量分析
押収された麻薬等の微量分析

 図Aは、押収されたMDMAの微量をSPring-8の放射光を使用して蛍光X線分析した結果を示し、図Bに押収された覚せい剤メタンフェタミンの微量をSPring-8の放射光を使用して蛍光X線分析した結果です。
 MDMAとメタンフェタミンの分子構造式を下の式に示します。


MDMAとメタンフェタミンの分子構造式

 この分子構造式から分かるように、MDMAは、炭素と水素と酸素と窒素から構成されており、図Aのスペクトルに見られるような、有毒なヒ素成分などの元素成分は、含まれていません。このことから、MDMAは、塩として結晶化させる成分などその密造方法や密輸プロセスに関係して、種々の特徴的な微量元素成分が含有されています。
 同様に、メタンフェタミンもまた、炭素、水素、窒素から構成された有機物であり、純品は、非常に有害な水銀やヨウ素を分子内に含まれません。しかし、図Bに示すように、このメタンフェタミンもまた、塩として結晶化させる成分などその密造方法や密輸プロセスに関係して、上述の特徴的な微量元素成分が含有されています。  これらの特異な元素成分を含むスペクトルは、"化学指紋"とも呼ばれ、その密造方法や密輸ルートに関係した情報を含んでいます。
 これらのことから、現在、大きな社会問題となっている乱用薬物について、SPring-8の放射光を用いて、非破壊的に、これらの元素情報やX線回折データを詳細に調べ、データベース化することで、従来の分析手法では見えなかった、決定的な科学捜査的情報を取り出すことができ、乱用薬物の取り締りは勿論、国際的な薬物犯罪への捜査協力にも大きく貢献する事が期待されます(これらの放射光薬物データベースができると、世界初となります。)。


(2)微細ガラス片の識別
図C 二種類のガラス板微細片のSPring-8での放射光蛍光X線分析の結果
図C 二種類のガラス板微細片のSPring-8での放射光蛍光X線分析の結果
(法科学技術, 11(2), 177-183(2006))

 ガラス材料は、建築材料などの窓ガラス、自動車、びん容器、情報通信材料、その他の極めて多方面で我々の生活に関係して日常的に利用されている材料であり、それだけ、犯罪等に関係して詳しく分析することが求められる材料です。
 図Cは、二種類の微細なガラス片をSPring-8の放射光蛍光X線分析した結果ですが、微細なガラス片でも成分元素の違いによって、両者の異同識別を非破壊的・高感度に行うことが可能です。
 このように、各種ガラスなど犯罪に関係する可能性のある材料や商品について、SPring-8の放射光蛍光X線分析や各種分析データをデータベース化しておくことで、新たな科学捜査用の強力な武器や裁判用の貴重なデータとなることが期待できます。


(3)殺人に使用された薬物の特定①
図D 臭化ベクロニウム微細薬物のSPring-8におけるX線回折分析
図D 臭化ベクロニウム微細薬物のSPring-8におけるX線回折分析

 図Dは、ある殺人事件において使用された筋弛緩剤臭化ベクロニウムを分析した結果ですが、極めて細い0.3ミリの太さのガラス管の先にわずかに付着したごく微量の薬物結晶でも、SPring-8の放射光を用いることによって短時間でX線回折分析データを取得でき、薬物特定が可能です。
 これら殺人事件などに使用される可能性のある薬物の放射光X線回折データや各種分析結果のデータベースを構築しておくことで、医薬品を含む薬物特定を迅速に行うことが可能になり、新しい強力な捜査手法や裁判に役立つデータとなることが期待されます。


(4)殺人に使用された薬物の特定②
図E コップの飲み跡部分の非破壊分析
図E コップの飲み跡部分の非破壊分析

 ある有名大学の技官が同僚を毒殺した事件が発生し、捜査本部から被害者が使用したコップの飲み跡から毒物成分を非破壊で分析する事を依頼されたことがありました。この場合、通常の分析装置では分析できないことから、急遽、図Eのように、コップの飲み跡部分だけを分析するX線分析装置を苦労して組み上げ、25000秒あまりおよそ7時間かけて、徹夜で分析信号を蓄積することでこの飲み跡から0.3ナノグラムの毒物成分タリウムを検出する事に成功しました。これはSPring-8が利用できない時代のことでした。
 しかし、SPring-8の最新のナノビーム放射光を利用できる現在では、非常に高感度な分析が可能であることから、測定時間としては10秒程度での分析が可能です。
 すなわち、SPring-8を利用すれば、以前の2500分の1のわずかな分析時間での高感度分析が可能な時代となっており、SPring-8の最新のナノビーム放射光は、複雑・巧妙・高度化する現代犯罪等を解明、抑止するための強力な武器となり、また、迅速な裁判に寄与する事が考えられ、このナノ・フォレンシック・サイエンスグループが社会に大きく貢献することが期待できます。


《補足説明》
*1 大型放射光施設SPring-8

兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高の放射光を生み出す(独)理化学研究所の施設です。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8 GeV(ギガ電子ボルト)に由来。SPring-8では放射光を用いて、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われています。

*2 フォレンシック・サイエンス(Forensic Science)
フォレンシック・サイエンス(Forensic Science)とは、“法科学”と訳される。一般的に、警察の科学捜査よりも広い意味を持ち、“裁判(法)に関係するあらゆるサイエンス(科学)を扱う学問として、欧米では定着しています。米国では、米国化学会が発行している有名な学術雑誌Analytical Chemistryに、2年に1度、世界中のForensic Scienceの研究動向が発表されています。



《問い合わせ先》
 高田 昌樹(タカタ マサキ)*
  高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門長
   TEL:0791-58-2750
    mail

 二宮 利男(ニノミヤ トシオ)*
  高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門
   ナノ・フォレンシック・サイエンスグループリーダー
   TEL:0791-58-0963
    mail

*2015年4月以降の問い合わせ先
 本多 定男
  公益財団法人高輝度光科学研究センター
   ナノテクノロジー利用研究推進グループ
    ナノフォレンシックソフトアプリケーションチームリーダー
    TEL:0791-58-0877
    mail

(SPring-8に関すること)
 公益財団法人高輝度光科学研究センター 利用推進部 普及啓発課 
  TEL:0791-58-2785 FAX:0791-58-2786
  E-mail:kouhou@spring8.or.jp