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銅酸化物を用いた自動車排出ガス触媒の設計指針を発見 ~脱貴金属を目指す新規自動車排出ガス触媒の実用化への進展に期待~(プレスリリース)

公開日
2012年02月01日
  • BL14B1(JAEA 物質科学)
  • BL14B2(産業利用II)
  • BL28B2(白色X線回折)
文部科学省委託事業・元素戦略プロジェクト「脱貴金属を目指すナノ粒子自己形成触媒の新規発掘」研究グループ(中核機関:独立行政法人 日本原子力研究開発機構、分担機関:国立大学法人大阪大学、ダイハツ工業株式会社、北興化学工業株式会社)は、自動車排出ガス浄化触媒の活性の発現機構の解明とその知見に基づく新規触媒設計の指針を得ることが出来ました。

2012年2月1日
国立大学法人 大阪大学

 文部科学省委託事業・元素戦略プロジェクト「脱貴金属を目指すナノ粒子自己形成触媒の新規発掘」研究グループ(中核機関:独立行政法人 日本原子力研究開発機構(プロジェクトリーダー:西畑保雄)、分担機関:国立大学法人大阪大学(業務主任者:笠井秀明)、ダイハツ工業株式会社(業務主任者:田中裕久)、北興化学工業株式会社(業務主任者:御立千秋))は、自動車排出ガス浄化触媒の活性の発現機構の解明とその知見に基づく新規触媒設計の指針を得ることが出来ました。本件に関して、2月7日(火)に記者発表を行います。
 現在、自動車排出ガスの浄化に関して、その浄化触媒の大半には貴金属(ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、プラチナ(Pt)等)が用いられています。我々は、希少元素である貴金属に依存しない新規触媒設計を目指し、遷移金属を用いた触媒の浄化活性について理論的解析と大型放射光施設SPring-8BL14B1BL14B2及びBL28B2を用いた実験による実証を進めてきました。自動車排出ガスに含まれる一酸化窒素(NO)の浄化に関して、貴金属の中でも特に高い活性を示すことが知られているRhとNOとの相互作用を評価し、他の貴金属との違いを明確にし、NOの還元反応を促進する要因を調査した結果、Rhは他の貴金属に比べてNOの解離吸着構造が安定で、かつ解離吸着プロセスの活性化障壁が小さくNOが解離しやすいことが分かり、これらの特性が、NOの還元反応を促進する要因の一つであることを見出しました。
 そこで大阪大学では理論解析を行い、様々な遷移金属表面(ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、銅(Cu)等)及びその酸化物表面を対象として、NOの解離吸着に関する研究を行いました。その結果、Ni、Co、Feは酸素が存在する環境下では金属表面が容易に酸化され、表面に吸着した酸素原子がNOの解離吸着を阻害することが分かりました。一方、Cuは他の遷移金属に比べ金属表面が露出しやすいこと、また露出したCuの金属表面はNOの還元反応が進むものの、Rhと比較すると活性が劣ることが分かりました。さらにNOの解離吸着が進みにくい原因が、Cuの金属表面の電子状態にあることを見出しました。
そこで、我々はCuの金属表面の電子状態をRhに近づけることを狙い、Cuの酸化物である銅酸化物(Cu2O)の電子状態と触媒活性を検討しました。その結果、あえてCuを酸化させ、さらに表面の酸素原子を取り除いた構造をデザインしたところ、NOの解離吸着を促進できることを見出しました。
 以上の理論的知見をもとに、NOXの浄化に関する、新規触媒設計の指針を見出したことは、貴金属使用量の低減につながると期待されます。また、これらの知見に基づき、実用化に向けての大きな進展が図れるものと考えております。今回の研究成果は、 最先端の基盤技術 「ナノテクノロジー」に関する世界最大の展示会「 nano tech 2012 第11回 国際ナノテクノロジー総合展・技術会議」(2月15日)での発表を予定しています。
(関連特許:国内22件,国外1件出願中)


《参考資料》

表面を制御した銅酸化物表面
表面を制御した銅酸化物表面


《語句説明》
*1 元素戦略プロジェクト

文部科学省の実施する事業で、物質・材料を構成し、その機能・特性を決定する元素の役割・性格を研究し、物質・材料の機能・特性の発現機構を明らかにすることで、希少元素や有害元素を使うことなく、高い機能をもった物質・材料を開発することを目的とする。

*2 自動車排出ガス浄化触媒
自動車の排ガス中の有害成分を還元・酸化によって浄化する装置。排気管の途中に設けられている。

*3 貴金属
一般的には金 (Au)、銀 (Ag)、白金 (Pt)、パラジウム (Pd)、ロジウム (Rh)、イリジウム (Ir)、ルテニウム (Ru)、オスミウム (Os) 等の元素を指す。存在が希少なものが多く、耐腐食性があるのが特徴である。

*4 一酸化窒素
窒素と酸素からなる無機化合物で、化学式であらわすと NO。酸化窒素とも呼ばれる。有機物の燃焼過程で生成し、酸素に触れると直ちに酸化されて二酸化窒素 NO2になる。硝酸の製造原料。光化学スモッグや酸性雨の成因に関連する。

*5 還元反応
対象とする物質が電子を受け取る化学反応のこと。または、原子の形式酸化数が小さくなる化学反応のこと。具体的には、物質から酸素が奪われる反応、あるいは、物質が水素と化合する反応等が相当する。

*6 解離吸着
化学吸着の1形態で、分子が分解して表面に吸着する。

*7 活性化障壁
一般に平衡状態にある一つの物質系が別の平衡状態に移るとき、その途中で両方の状態よりもポテンシャルエネルギーの高い状態(エネルギー障壁)を越えなければならない。この状態のポテンシャルエネルギーと初めの平衡状態のエネルギーとの差を活性化障壁という。

*8 遷移金属
周期表で第3族元素から第11族元素の間に存在する元素の総称である。

*9 電子状態
物質(原子、分子なども含む)における電子の状態のこと。具体的な電子の状態として、電荷密度(電荷分布)、バンド構造(あるいは電子の準位)、磁気構造(あるいは電子のスピンの状態)、フェルミ面、状態密度、原子間の結合の状態(電荷分布と関係)などが挙げられる。これら以外にも電子状態を示す様式は、数多く存在する。

*10 銅酸化物
銅の酸化物である。組成の違いにより、酸化銅(I)Cu2Oと酸化銅(II)CuO がある。

*11 ナノテクノロジー
物質をナノメートル (nm、1 nm = 10-9m)の領域すなわち原子や分子のスケールにおいて、自在に制御する技術のことである。ナノテクと略される。そのようなスケールで新素材を開発したり、そのようなスケールのデバイスを開発する。

*12 nano tech 2012
ナノテクノロジーに関する世界最大の展示会。nano tech では、ナノ材料・素材、超微細加工技術、評価・計測分野をはじめ、 各応用分野に対応した最新技術・製品が一堂に集結し展覧される。 nano tech 2012ではInter Aqua 2012、ASTEC2012、METEC2012、 Convertech JAPAN 2012、新機能性材料展2012、 プリンタブルエレクトロニクス2012、そして環境電池展2012と、 計8展示会が同時に開催される。



《問い合わせ先》
 大阪大学 大学院工学研究科
 精密科学・応用物理学専攻 応用物理学コース
 教授  笠井 秀明
  TEL:06-6879-7857
  E-mail:mail

(SPring-8に関すること)
 高輝度光科学研究センター 広報室
  TEL:0791-58-2785 FAX:0791-58-2786
  E-mail:kouhou@spring8.or.jp 

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