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光合成の初期過程をモデル化合物で再現 (トピック)

公開日
2015年03月03日
  • SACLA BL3

2015年3月3日
ルンド大学
デンマーク工科大学

   スウェーデン ルンド大学、デンマーク工科大学を中心とする研究グループは高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所、理化学研究所、高輝度光科学研究センターとの共同研究により、光合成反応のモデル化合物内で電子が移動する過程を、X線自由電子レーザー(XFEL)施設SACLA BL3を用いて可視化することに成功しました。

   植物が行う光合成は、葉の中にあるクロロフィルという色素が光エネルギーを吸収することで、クロロフィルから電子が一つ抜け、別の分子へ移動することから始まります。これは光合成反応初期過程の最も重要なプロセスの一つですが、約1ピコ秒(1ピコ秒=1兆分の1秒)という極めて短い時間内に進行するため、クロロフィルが光を吸収してから、電子一つが移動するプロセスは大きな謎に包まれていました。

   研究グループは、クロロフィルにおける電子移動のモデル化合物として、ルテニウムとコバルトを含む分子を用いました。この分子に0.1ピコ秒という短い時間幅の可視光を照射すると、ルテニウムから1個の電子が抜け、抜けた電子が分子内を移動してコバルト側に移る様子を観測しました。このような金属原子の間の電子の移動過程は、X線発光分光*1という測定法で、また電子の移動に伴う分子構造の変化は、X線溶液散乱*2という測定法で精密に調べることができます。本実験では、可視光を照射した後に時間を追ってX線発光分光とX線溶液散乱を同時に測定したところ、光照射から約0.5ピコ秒後にコバルト側に電子が移動して、コバルトの状態が三価から二価へと変化し、さらに約2ピコ秒後にコバルト原子周辺の分子構造が変化することが明らかとなりました。

   この結果は、植物の光合成を理解することに役立つだけでなく、光合成反応を模倣して、人工的に光エネルギーを化学エネルギーに変換する人工光合成の開発に役立つことが期待されます。研究グループは、この手法を用いて太陽光を利用した人工光合成のための光触媒の開発研究も精力的に進めています。

   本研究は、文部科学省X線自由電子レーザー重点戦略研究課題の支援を受けて実施され、科学雑誌『Nature Communications』のオンライン版(3月2日付け)に掲載されました。

論文情報:
雑誌名:Nature Communications 6, 6359 (2015)
研究論文名:"Visualizing the non-equilibrium dynamics of photoinduced intramolecular electron transfer with femtosecond X-ray Pulses"
著者:  Sophie E. Canton, Kasper S. Kjær, György Vanko, Tim B. van Driel, Shin-ichi Adachi, Amélie Bordage, Christian Bressler, Pavel Chabera, Morten Christensen, Asmus O. Dohn, Andreas Galler, Wojciech Gawelda, David Gosztola, Kristoffer Haldrup, Tobias Harlang, Yizhu Liu, Klaus B. Møller, Zoltán Németh, Shunsuke Nozawa, Mátyás Pápai, Tokushi Sato, Takahiro Sato, Karina Suarez-Alcantara, Tadashi Togashi, Kensuke Tono, Jens Uhlig, Dimali A. Vithanage, Kenneth Wärnmark, Makina Yabashi, Jianxin Zhang, Villy Sundström & Martin M. Nielsen
DOI 番号: 10.1038/ncomms7359

《参考図》

光を吸収してルテニウムからコバルトへ電子が移動するプロセスと時間
光を吸収してルテニウムからコバルトへ電子が移動するプロセスと時間


《用語説明》
※1  X線発光分光
物質の電子状態を調べるため手法の一つ。物質がX線を吸収し、その後の緩和過程で発光するX線をエネルギー分光することで物質の電子状態を調べる手法。

※2 X線溶液散乱
溶液中の分子の構造情報を得るための手法の一つ。溶液中の分子によってX線が散乱され、その干渉パターンから分子構造を調べる手法。




デンマーク工科大学発表のプレスリリースはこちら(デンマーク語)
ルンド大学発表のプレスリリースはこちら(英語)



《問い合わせ先》
大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構
物質構造科学研究所
教授 足立 伸一(あだち しんいち)
TEL: 029-864-5200 FAX:029-864-3202
E-mail:mail1

(SPring-8に関すること)
公益財団法人高輝度光科学研究センター 利用推進部 普及啓発課 
TEL:0791-58-2785 FAX:0791-58-2786
E-mail:kouhou@spring8.or.jp