大型放射光施設 SPring-8

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ナノのガラスビーズを発光させることに成功(プレスリリース)

公開日
2015年06月30日
  • BL02B2(粉末結晶構造解析)

2015年6月30日
青山学院大学

   青山学院大学理工学部化学・生命科学科石井あゆみ助教・長谷川美貴教授は、ガラス(SiO2ナノ粒子※1,2の界面を利用し、希土類※3と有機化合物の金属錯体※4 を融合した新しいしくみによる発光性ナノ粒子を開発しました。これまで希土類の青色発光体を得るためには、水素ガスなどを用いた強い還元雰囲気で高温焼成する製造プロセスが必要でしたが、本研究では、特有の発光を示す希土類の一つであるユウロピウム(Eu)を、安価なガラスナノ粒子界面に薄く固着し、さらに有機化合物で覆うことで、大気下低温焼成という環境負荷の低い条件で、発光色を赤色から青色に変化させるしくみを世界で初めて見出しました。本成果により、将来的には新しい原理によるマルチカラーの発光デバイスや生体内のセンシング材料への展開が期待されます。
 本研究成果は、ネイチャー・パブリッシング・グループが発行する科学誌「サイエンティフィックリポート」(6月30日)に掲載されます。

研究の背景
 可視光領域に発光を示す材料は、ディスプレーやLED応用として近年高い注目を集めています。希土類を用いた発光材料の歴史は古く、一部の元素を除いては、資源的にも豊富であることも光機能性材料として非常に魅力的です。今回、本研究で用いた有機化合物との複合材料である希土類錯体は、有機化合物の構造設計や分子配列により、所望の機能を自在に操作することができます。たとえば、ユウロピウム(Eu)イオンを含む錯体は、紫外光を赤色発光に変換できます。このような金属イオンと有機化合物の融合により得られた機能性分子材料は、低濃度(一分子レベル)でも機能性を保持できることから、低環境負荷・資源節約といった観点からも期待されています。
 希土類は、常温常圧下で3価の陽イオンが最も安定であることが知られています。そのため、錯体を含む分子材料における希土類イオンの9割以上が3価の化合物として存在します。これに対し、希土類が2価の陽イオンになると、3価の場合とは異なる発光挙動を示すことが報告されています。例えば、希土類イオンの中で一番安定なEu2+は、周辺環境に依存し青色や緑色や黄色の強い発光を示し、蛍光灯の蛍光体や夜光塗料などの発光性材料として利用されています。Eu2+は、アルカリ土類金属イオンを含む無機化合物中であれば、比較的安定な状態で存在できますが、Eu2+化合物の合成条件は、たとえば水素ガスなどを用いた強い還元雰囲気での1000℃を超える高温焼成による製造プロセスが必要となります。今回の研究においては、特有の発光を示すEuイオンに着目し、環境負荷の低い条件で発光色を赤色から青色に自在に制御するナノ構造とそのしくみを世界で初めて見出しました。

研究手法・成果
本研究では、ガラス(SiO2)のナノ粒子の界面を利用し、Euイオンとフェナントロリンという有機化合物の金属錯体を形成させることで、大気下低温焼成のみでEuからの発光を赤色から青色に変化させることに世界で初めて成功しました(図1)。ガラスナノ粒子は、地殻に多く存在し非常に安価なSiO2から構成されます。将来的には基板として固定化することも可能です(図2)。作製時は、ガラスナノ粒子上のEuイオンは安定な3価であり、フェナントロリンが紫外線を吸収することで、強い赤色発光が観測されます。このガラスナノ粒子は、大気下低温焼成(200℃)すると、界面に存在するEuイオンを2価にすることができ、強い青色発光を示すことが明らかとなりました(図3)。また、SPring-8のBL02B2での高輝度なX線を用いた構造解析により、特異的な発光を示すガラスナノ粒子表面のナノメートルオーダーのEu錯体の吸着を証明できました(図4)。これまで、水素ガスなどを用いた強い還元雰囲気で1000℃以上でないとできなかった現象に対して、本系では、Euを安価なガラスナノ粒子界面に薄く固着し、さらに有機化合物で覆うことで、大気下低温焼成という環境負荷の低い条件で、その発光色を赤色から青色に変化させることができます。これは、ガラスナノ粒子と有機分子の界面という特異的な状況でのみ生じる現象です。

期待される成果
現在、資源エネルギー問題が深刻化している日本において、光を有効に利用した材料の開発は、学術的にも科学技術的にも非常に重要です。本研究で得られた発光性ガラスナノ粒子は、特有の発光を示す希土類イオンを、安価なガラスナノ粒子界面に薄く固着し、さらに有機化合物で覆うことで、大気下低温焼成という環境負荷の低い条件で、発光色を自在に制御することができます。ガラスナノ粒子の作製は、大気湿式条件下で温度も比較的低いことから、真空や高温を必要とせず、製造過程でのコストも大幅に削減できます。有機化合物の種類やナノ粒子の粒形を変えることで、新たな発光機能を付加することも可能です。本成果により、将来的には新しい原理によるマルチカラーの発光デバイスや生体内のセンシング材料への展開が期待されます。

この研究成果の一部は、文部科学省科研費および私立大学戦略的研究基盤形成事業により遂行されました。なお、石井あゆみ博士はSPring8第一回萌芽的研究アワード優秀賞を受賞しています。

図1 Eu錯体-ガラスナノ粒子の模式図と発光の写真(写真中のバーは1 cm)
図1 Eu錯体-ガラスナノ粒子の模式図と発光の写真(写真中のバーは1 cm)

 


図2 Eu錯体-ガラスナノ粒子の電子顕微鏡写真(左:ナノ粒子、右:薄膜表面)
図2 Eu錯体-ガラスナノ粒子の電子顕微鏡写真(左:ナノ粒子、右:薄膜表面)

 


図3 Eu錯体-ガラスナノ粒子の発光スペクトル(紫外光で励起)
図3 Eu錯体-ガラスナノ粒子の発光スペクトル(紫外光で励起)

 


図4 Eu錯体-ガラスナノ粒子の放射光XRDパターン(X線の波長は1Å)
図4 Eu錯体-ガラスナノ粒子の放射光XRDパターン(X線の波長は1Å)

 


《用語説明》
(1) ガラス
主成分、二酸化ケイ素(SiO2)。ケイ素の酸化物で、地殻に多く存在するため安価な材料である。

(2) ナノ粒子
ナノメートルのオーダーの粒子。ナノメートルとは10億分の1メートル。比表面積が極めて大きいことや、そのサイズによって光の散乱と反射が変化することなど、一般的な大きさの固体(バルク)の材料とは異なる特性を示すことから、様々な分野で研究や応用に向けた開発が進められている。

(3) 希土類
希土類:スカンジウム (Sc、原子番号21番)、イットリウム (Y、39番)、ランタン(La、57番) に、セリウム(Ce、58番)からルテチウム(Lu、71番) までの14元素(ランタニド)の総称。LaからYbまでの電子配置は、4fn5s25p6となり、内部にある4f軌道が不完全充填となる。この4f軌道の電子配置により特異的な性質を示し、磁性、発光、触媒、エレクトロニクス材料などに展開されている。

(4) 金属錯体
金属イオンと有機化合物の非金属の原子が結合した構造を持つ化合物。金属錯体は、有機化合物・無機化合物のどちらとも異なる多くの特徴的性質を示すことから、幅広い分野で研究が行われている。



《問い合わせ先》
【研究に関する問い合わせ先】
長谷川 美貴(ハセガワ ミキ)青山学院大学理工学部 教授
石井 あゆみ(イシイ アユミ)青山学院大学理工学部 助教
〒252-5258神奈川県相模原市中央区淵野辺5-10-1
TEL/FAX 042-759-6221
E-mail:mail1, mail2

【取材に関する問い合わせ先】
青山学院大学入学広報部入学広報課
〒150-8366 渋谷区渋谷4-4-25
 TEL:03-3409-4159 FAX:03-3407-4068

(SPring-8に関すること)
公益財団法人高輝度光科学研究センター 利用推進部 普及啓発課 
TEL:0791-58-2785 FAX:0791-58-2786
E-mail:kouhou@spring8.or.jp