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パーキンソン病発症の鍵を握る「αシヌクレイン」の 生体内により近い状態での構造解析に成功 ~ パーキンソン病の根本治療の手がかりに ~(プレスリリース)

公開日
2016年08月08日
  • BL40B2(構造生物学II)

2016年8月8日
大阪大学

【研究成果のポイント】
◆生体内に近い状態でのαシヌクレインの構造解析に成功し、生体内では単量体として存在する事を明らかにした。
◆生体内でαシヌクレインが単量体、4量体のどちらの構造で存在するかについては、パーキンソン病の根本治療法開発に大きな影響を与えるため、注目されている。
◆ヒト生体内のαシヌクレインが生理条件下で単量体であると推定された事は、パーキンソン病の治療法開発に向けて有用な情報となり、今後、発症メカニズムの解明が期待される。

 荒木 克哉 特任研究員、望月 秀樹 教授(大阪大学 大学院医学系研究科 神経内科学)、八木 直人 博士(公益財団法人 高輝度光科学研究センター(JASRI))らの研究グループは、パーキンソン病※1)発症の鍵を握るタンパク質であるαシヌクレイン※2)をヒト赤血球から精製し、大型放射光施設SPring-8※3)においてX線小角散乱法※4)により、生理的な条件に近い液体中でのαシヌクレインの構造解析に成功しました。
 生体内でαシヌクレインが単量体、4量体のどちらの構造で存在するかについては、パーキンソン病の根本治療法開発に大きな影響を与えるため、注目されています。
 本研究成果により、ヒト生体内のαシヌクレインは生理条件下においては単量体で存在することが明らかになり、今後のパーキンソン病の発症メカニズムの解明および治療法の開発に向けて有用な情報が得られました。
 なお、本研究成果はScientific Reportsの電子版に7月29日(金)19時(日本時間)に公開されました。

【掲載雑誌】
掲載紙Scientific Reports誌 2016
論文タイトル:A small-angle X-ray scattering study of alpha-synuclein from human red blood cells.
著者:Araki K, Yagi N, Nakatani R, Sekiguchi H, So M, Yagi H, Ohta N, Nagai Y, Goto Y, Mochizuki H.

研究の背景
 パーキンソン病はアルツハイマー病についで2番目に多い進行性の神経変性疾患※5)です。現時点では、病気の進行を抑制する根本的な治療法は無く、治療法の開発には発症メカニズムの解明が必要です。
 パーキンソン病患者の脳内では、レビー小体という異常なタンパク質の凝集体が見られ、その主成分であるαシヌクレインが発症の重要な鍵を握ると考えられています。このため、αシヌクレインの構造や凝集に注目した研究が盛んに行われ、αシヌクレインの凝集を抑制することで根本的に治療しようとする試みが世界中で進められています。
 これまでの研究において、αシヌクレインは、溶液中では決まった2次構造を持たない単量体として存在すると考えられてきましたが、その多くは大腸菌で発現させた遺伝子組み換えタンパク質を用いて研究されていました。一方で、2011年には、ヒトの生体内のαシヌクレインについて、凝集が起こりにくいと考えられる安定な構造である4量体として存在する可能性が報告されていました。ヒトの生体内で安定な4量体のαシヌクレインが存在するか否かは、パーキンソン病の根本治療法開発に大きな影響を与えるため、大変注目されてきました。
 この議論に決着をつけるためには、大腸菌由来ではなく、ヒト生体由来のαシヌクレインを用いて、より信頼度の高い構造解析を行うことが必要でした。そこで、研究グループはヒト赤血球からαシヌクレインを精製し、大型放射光施設SPring-8においてX線小角散乱法を用いることで、より生理的な条件に近い液体中でのαシヌクレインの構造解析を試みました。

図1.αシヌクレインの構造と凝集についてのこれまでの仮説
図1.αシヌクレインの構造と凝集についてのこれまでの仮説

 

本研究の成果
 生体内の状態に近い溶液中でのタンパク質の構造解析に有用であるX線小角散乱法は、大量のタンパク質を必要とするため、研究グループは、ヒト赤血球から高純度かつ十分量のαシヌクレインを精製することで、解析に成功しました。その結果、ヒト赤血球から精製したαシヌクレインは特定の構造を持たない単量体として存在することがわかりました。 さらに、αシヌクレインは溶液条件によって構造がかなり変化することがわかり、条件によって、一部のタンパク質は多量体として存在する可能性も示唆されました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
 本研究成果により、パーキンソン病発症の鍵とされるαシヌクレインは、生体内では単量体で存在することが推定され、4量体仮説の真偽の議論に大きな影響を与えると思われます。
 また、溶液条件によってαシヌクレインの構造や多量体との平衡状態が大きく変化する可能性を示しており、αシヌクレインの構造解析や凝集実験において溶液条件を決定する際には、十分な注意を払う必要があることを提起しています。今後さらに、αシヌクレインの凝集メカニズムの解明を進めることで、パーキンソン病の根本治療開発が期待されます。

 


【用語解説】
(※1) パーキンソン病 Parkinson's disease (PD)
振戦(ふるえ)、動作緩慢、筋強剛(筋固縮)、姿勢保持障害(転びやすいこと)を主な運動症状とする進行性の神経変性疾患。発症は50~65歳に多く、60歳以上における有病率は100人に約1人とされる。

(※2) α−シヌクレイン
パーキンソン病患者に見られる特徴的なタンパク質凝集体であるレビー小体の主成分と考えられている。140アミノ酸残基からなるタンパク質で、神経細胞に局在し、シナプスの可塑性や神経伝達物質の調整などを行っている。その異常蓄積によりパーキンソン病(PD)、多系統萎縮症(MSA)、レビー小体型認知症(DLB)を発症することが知られている。

(※3) SPring-8
兵庫県にある世界最大級の大型放射光施設。リング型の施設で、電子を光速程度まで加速して得られる非常に強いX線を用いて、様々な研究が行われている。
<詳細>SPring-8とは?

(※4) X線小角散乱法(Small-Angle X-ray Scattering, SAXS)
X線を物質に照射して散乱する X線のうち、散乱角が小さいものを測定することにより物質の構造情報を得る手法。溶液中のタンパク質の構造解析に非常に有用である。本研究ではSPring-8/JASRIのビームラインBL40B2を用いて、解析を行った。

X線小角散乱法(Small-Angle X-ray Scattering, SAXS)
X線小角散乱法(Small-Angle X-ray Scattering, SAXS)

 

(※5) 神経変性疾患
脳あるいは脊髄にある神経細胞のうち、例えば、運動、認知機能にかかわる神経細胞といったように、特定の神経細胞が徐々に障害を受けて死んでいく病気。



【本件に関する問い合わせ先】
<研究に関すること>
望月 秀樹(もちづき ひでき)
大阪大学 大学院医学系研究科
情報統合医学講座(神経内科学) 教授
TEL: 06-6879-3571 FAX:06-6879-3579
 E-mail:officeatneurol.med.osaka-u.ac.jp

<報道に関すること>
大阪大学 大学院医学系研究科 広報室
TEL: 06-6879-3388 FAX:06-6879-3399
 E-mail:kouhousitsuatoffice.med.osaka-u.ac.jp

(SPring-8に関すること)
公益財団法人高輝度光科学研究センター 利用推進部 普及啓発課 
 TEL:0791-58-2785 FAX:0791-58-2786
 E-mail:kouhou@spring8.or.jp

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