大型放射光施設 SPring-8

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「白色LED用赤色蛍光体」を開発! ~新物質探索による新たな可能性を拓く~(プレスリリース)

公開日
2017年12月11日
  • BL02B1(単結晶構造解析)
  • BL02B2(粉末結晶構造解析)

2017年12月11日
株式会社小糸製作所
東京工業大学
名古屋大学

 株式会社小糸製作所(社長:三原 弘志)は、東京工業大学(学長:三島 良直)の細野 秀雄教授の研究グループ、名古屋大学(総長:松尾 清一)の澤 博教授の研究グループと共同で、新しい「白色LED用赤色蛍光体FOLP:Eu2+ (Fluorine Oxygen Ligand Phosphor)」の開発に成功しました。
 FOLP:Eu2+は、紫外~紫(315~420 nm)の光を吸収し、高い変換効率で赤色発光しますが、青~黄色領域の光に対し殆ど吸収を示さない大きなストークスシフト※1を持っています。この特性により、白色光を得るために青、緑、黄色等の他色の蛍光体と混合したとき、他の蛍光を再吸収しないため、色ずれを起こさず、安定した色度の白色光が得られます。
 従来の白色LEDは赤成分の不足により、十分な演色性※2が得られませんでした。そこで赤色蛍光体を追加実装し、高演色化を図っています。現在、白色LEDに使われている赤色蛍光体は、紫や青だけでなく、黄色領域までの可視光を赤色光に変換してしまうため、色ずれの原因になっていました。これに対し、今回開発したFOLP:Eu2+は、特異な結晶構造により、その問題を払拭することができる蛍光体です。

今回の論文の主な内容

【結晶構造】 FOLP:Eu2+はK2CaPO4F:Eu2+の組成で、新しい結晶構造を持つ新物質。その結晶構造はイオン結合性の化合物に発光元素ユーロピウム※3が微量添加(ドープ)されており、ユーロピウム周りにはフッ素と酸素イオンが配位した混合配位子場※4を形成している。

【発光性能】 紫外~紫光を吸収し、赤色光に変換する。一方、青~黄色の波長域の光は変換せず、大きなストークスシフトを示し、可視光下では白色粉末であるが、紫光の下では赤色発光する。

【メカニズム】 FOLP:Eu2+が示す大きなストークスシフトのメカニズムを密度汎関数理論※5の応用により解明した。

本研究では、名古屋大学が大型放射光施設SPring-8※6BL02B1およびBL02B2の高輝度放射光を用いて、FOLP:Eu2+の結晶構造の決定を行い、東京工業大学が密度汎関数理論を用いて、FOLP:Eu2+の発光メカニズムの解明を行っています。
本研究成果は、ロンドン時間12月4日発行の英国王立化学会(Royal Society of Chemistry)の科学誌『Chemical Communications』に掲載されました。

掲載情報
題名:
A novel red-emitting K2Ca(PO4)F:Eu2+ phosphor with a large Stokes shift
著者:Hisayoshi Daicho, Kiminori Enomoto, Yu Shinomiya, Akitoshi Nakano, Hiroshi Sawa, Satoru Matsuishi, Hideo Hosono
ジャーナル名:Chemical Communications
DOI:10.1039/c7cc08202a

【研究の背景】
 従来、白色LEDに用いられている赤色蛍光体は、窒化物系の化合物に発光元素をドープしたものが主流でした。それらにドープされた発光元素は、周囲の窒素イオンと強い共有結合性を示すことから、赤色のような長い波長(エネルギーの小さい)の発光を実現していました。しかし、これらの蛍光体は、青~黄色の波長域の可視光をも吸収し、赤色光に変換してしまいます。そのことは、他色の蛍光体と混合し白色光を形成するとき、赤色蛍光体が青~黄色の蛍光を再吸収するため、発光色の赤色方向へのシフトを誘発します。そのため、現状の白色LEDは色度調整が難しく、色度ランクを分けながら販売されていました。

【研究の内容と成果】
 今回の開発コンセプトは、“混合配位子場の形成”による蛍光体探索です。これは、イオン結合性結晶に発光元素をドープし、その周りに異なる種類のアニオン※7を配位させることです。異種アニオンの配位により、発光元素周りでは空間的な電荷バランスが崩れ、配位アニオンとの静電反発の違いから、発光元素の電子軌道にエネルギーレベルが高い軌道と低い軌道が形成されます。本開発は、その低いエネルギーレベルの軌道を用い、赤色発光させるというコンセプトです。今回は、発光元素周りにフッ素と酸素イオンが配位したFOLP:Eu2+(組成 K2CaPO4F:Eu2+)を開発しました。
 FOLP:Eu2+は、単結晶構造解析の結果、無機結晶構造のデータベースにはない新しい結晶構造をした物質でした(図1)。FOLP:Eu2+は、紫外~紫(315~420 nm)の光を吸収し、高い変換効率で赤色発光します(図2)。特筆すべきは、青~黄色光領域に吸収を持たず、大きなストークスシフトを示すことです。そのため、FOLP:Eu2+は、青、緑、黄色等の蛍光体と混合したとき、他の蛍光を再吸収せず、蛍光体の配合比だけで発光色を決めることができます。図3は、FOLP:Eu2+を用い試作した白色LEDが、均一色発光している様子です。論文では、密度汎関数理論を応用し、FOLP:Eu2+が示すストークスシフトは、紫光吸収に伴う大きな結晶構造緩和が起源であることを解明しています。


図1

図1.FOLP:Eu2+の結晶構造


図2

図2.FOLP:Eu2+の励起-発光スペクトル


図3

図3.FOLP:Eu2+を用いた白色LEDの発光


【用語解説】
※1:ストークスシフト
電子遷移による発光における励起エネルギーと発光エネルギーの大きさの差。

※2:演色性
照明で物体を照らすときに、自然光が当たったときの色に対する再現度合を示す指標。

※3:ユーロピウム
原子番号63の希土類元素の1つでランタノイドに属する。蛍光体の発光元素として活用される。

※4:混合配位子場
カチオン周りに異種アニオンが隣接した部位。カチオンは、隣接する異種アニオンから異なるクーロン力を受ける。

※5:密度汎関数理論
電子密度の分布から、物質のエネルギー等の物性を計算する方法。

※6:大型放射光施設SPring-8
兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す理化学研究所の施設で、その運転と利用者支援などは高輝度光科学研究センター(JASRI)が行っている。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、細く強力な電磁波。SPring-8では、この放射光を用いて、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われている。

※7:アニオン
電子を受け取って、負の電荷を帯びたイオン。



【問い合わせ先】
株式会社小糸製作所 研究所
主管 大長 久芳
 TEL:054-345-2566 FAX:054-347-0454
 E-mail:hdaichoatkoito.co.jp

国立大学法人名古屋大学大学院工学研究科
教授 澤 博
 TEL:052-789-4453 FAX:052-789-3724
 E-mail:z47827aatcc.nagoya-u.ac.jp

国立大学法人東京工業大学 
科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所 教授、元素戦略研究センター長
細野 秀雄
 TEL:045-924-5009 FAX:045-924-5196
 WE-mail:hosonoatmsl.titech.ac.jp

【リリース等に関する問い合わせ】
株式会社小糸製作所 総務部 広報課 唐澤晋自・水野敦文
 TEL:03-3447-5103  FAX:03-3447-1520

(報道担当:SPring-8 / SACLAに関すること)
公益財団法人高輝度光科学研究センター 利用推進部 普及情報課 
 TEL:0791-58-2785 FAX:0791-58-2786
 E-mail:kouhou@spring8.or.jp