大型放射光施設 SPring-8

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理化学研究所創発物性科学研究センター副センター長、 東京大学大学院工学系研究科 相田卓三教授が日本学士院賞を受賞(トピック)

公開日
2018年03月12日
  • 受賞

2018年3月12日、日本学士院は、SPring-8の放射光を用いた「革新的ソフトマテリアルの精密階層設計に関する研究」への功績に対し、理化学研究所創発物性科学研究センター副センター長、東京大学大学院工学系研究科 相田卓三(あいだ たくぞう) 教授に日本学士院賞を授与すると発表しました。

受賞者氏名(所属):
 相田卓三(理化学研究所創発物性科学研究センター副センター長、東京大学大学院工学系研究科教授 )

 Professoraidatakuzou

研究題目:
 革新的ソフトマテリアルの精密階層設計に関する研究

受賞理由:
 相田卓三氏は、分子が「ナノ領域を経て巨視領域に至る階層構造を形成する」ボトムアップ集積プロセスにおいて「多価相互作用」や「物理的摂動」を駆使し、世界を驚嘆させる多くの革新的ソフトマテリアルを開拓しました。昨今、研究者の視線がこれまでの「希薄平衡系」からより複雑な「凝縮非平衡系」に移行しつつありますが、相田氏は20年程前に無機材料のナノ細孔を反応場としたエチレンの押し出し重合を発見し、凝縮非平衡系での階層的組織化に立ちはだかる速度論的トラップを制御するためのヒントをいち早く察知しました。それを契機に上述の多価相互作用や物理的摂動を駆使してナノ領域と巨視領域の間に存在するMissing Linkを繋ぐことで未成熟だった当該分野を牽引し、ほぼ水から成るのに強靭で異方的なアクアマテリアルや破断しても室温で圧着修復できる樹脂ガラスなど、他に類のない独創的な物質科学を深く広く展開してきました。


【用語解説】
ボトムアップ集積プロセス
 分子を自己組織化させ、核形成→ナノ領域→メゾ領域→巨視領域と次第に大きな集積構造を作っていくプロセス。

多価相互作用
 AとBのユニット間の親和性(A・・・・B)を利用して分子同士を接着させる際、接着させようとする分子のそれぞれにより多くのA、Bユニットを持たせると分子同士の接着力が非線形的に増大するという効果。

物理的摂動
 定常的にかかっている力からずれた力をかける行為。たとえば自然運動をしているコロイド分散粒子に超音波をかけるなどの操作。

ソフトマテリアル
 硬く変形しにくい金属やセラミックスなどの材料とは異なり、プラスチック、ゴム、液晶、ゲルといった人体のように容易に変形する材料。

押し出し重合
 相田氏が1999年に発表した特別な高分子合成反応。シリカゲルの一種である無機多孔性材料の穴の中で高分子物質を作ると、生成した高分子が穴から一方向に押し出されながら集合(下イメージ図参照)し、強靭なファイバーになる。相田氏はエチレンからポリエチレンを生成する重合反応においてこの最初の例を発見した。配向した高分子量ポリエチレンは防弾チョッキに使えるが、配向が不十分なポリエチレンは脆弱である。

速度論的トラップ
 希薄溶液系では分子同士の衝突が遅く、分子の組織化が化学平衡に従って均一に起こる。しかし、濃厚凝縮系での分子の組織化では化学平衡が成り立たず、熱力学的に安定な構造ではなく、先にできる構造が選ばれる(速度論的支配)。このため分子の組織化が不均一に進行し、精緻な階層構造を得ることは難しい。

アクアマテリアル
 粘土ナノシートをそれと高い親和性を有する高分子物質と水中で混合するだけで生成する、ほぼ水から成る(水含量98 %)のに強靭なゲル状物質(下写真参照)。相田氏が2010年に発表し、「混ぜるだけでできるゲル状物質は弱い」というそれまでの常識を覆した。

室温で圧着修復できる樹脂ガラス(自己修復性樹脂ガラス)
 相田氏が2018年に発表した「室温で破断面を圧着させておくと、破断面同士が融合して修復する」硬いガラス状の素材(下写真参照)。ゴムやゲルといった分子運動が活発で柔らかい素材に関しては自己修復挙動を示す例があったが、本研究は「分子運動が凍結したガラスのように硬い樹脂は加熱溶融しない限り判断面を修復できない」というそれまでの常識を覆した。



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