大型放射光施設 SPring-8

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SPring-8 Seminar (第169回)

主題/内容 二重クラスタ模型による CoMnO3 L吸収端磁気円二色性の解析と軌道強磁性の微視的機構
開催期間 2007年07月02日 (月)
開催場所 萌光館
主催 (財)高輝度光科学研究センター(JASRI)
形式 レクチャー(講演)
分野 物質科学
概要

日時 : 2007年7月2日(月) 16:00-17:00

場所 : 萌光館

講演者: 魚住孝幸

所属 : 大阪府立大学 大学院工学研究科 電子・数物系専攻,数理工学分野

講演表題:二重クラスタ模型による CoMnO3 L吸収端磁気円二色性の解析と軌道強磁性の微視的機構

講演要旨:イルメナイト構造を持つCoMnO3では,Co2+ (3d7)とMn4+ (3d3)のスピン(S=3/2)が打ち消しあい,軌道磁気モーメントがその強磁性を担うことが古くから知られているが,その微視的機構は明らかではない.最近,水牧(JASRI) らはL吸収端磁気円二色性(MCD)および磁気コンプトン散乱の測定を行い,低温における,CoおよびMn軌道磁気モーメントの強磁性的配列とスピン磁気モーメントのほぼ完全な打消しの微視的観測に成功した.このセミナーでは,二重クラスタ模型(CoMnO9)によるMCD解析の報告と軌道強磁性発現の微視的機構の提案を行なう.
従来,このような解析ではCoO6あるいはMnO6のような一つの遷移元素を不純物として含む一不純物模型が標準的に用いられてきた.しかしながら,CoMnO3にこれらを適用するとMn MCDの符号が再現できない.これは,一不純物模型の適用限界を端的に示す例であり,CoMnO3の解析では,Co-Mn間のスピン(あるいは軌道)相関を取り入れることが必要である.そこで,本研究では,多重項相互作用をフルに考慮したCoMnO9クラスタ模型を用いる.この模型は,多重項相互作用によるフント結合,結晶場,Co 3d-Mn 3d間の直接的,あるいはO 2pを介した間接的な混成相互作用を含み,これらの協力的あるいは競合的作用の結果としてCo-Mn多重項間の相関が適切に記述出来る枠組みとなっている.その結果,Co 3d - Mn 3d間の移動積分として (ddσ)=0.5eV程度を仮定すれば,Co-Mn間のスピンの反強磁性的相関と軌道磁気モーメントの強磁性的相関が生じ,CoおよびMnのMCD符号が矛盾無く再現できることが分かった.この解析を通して得られた軌道強磁性発現の微視的機構は以下の通り:(1)比較的大きな(ddσ)によりCoとMnのσ軌道間でスピン一重項状態が形成される.(2)Mn 3d電子間の交換相互作用により,σ軌道電子に引っ張られる形でMn内でスピンがそろえられる.これらの結果Co-Mnスピン間に反強磁性的相関が生じる.(3)スピン-軌道相互作用によりCo,Mnにおいて軌道磁気モーメントが出現し,スピン-軌道結合係数がCo2+ (3d7), Mn4+ (3d3)で逆符号であるため,これらは強磁性的に配列する.
なお,セミナーでは上述の話題の他にも,バンド計算と不純物模型を組み合わせた枠組み等,最近行なっている内殻分光解析のための新しい枠組みの模索についても報告したい.

担当者:水牧(PHS 3870)

問い合わせ先 (財)高輝度光科学研究センター(JASRI) 研究調整部 研究業務課 ワークショップ事務局  垣口 伸二、濱中 裕子
0791-58-0839
0791-58-0988
spring8_seminar@spring8.or.jp
最終変更日 2019-11-22 09:10