大型放射光施設 SPring-8

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地球深部(核・マントル境界)の構成鉱物が明らかに- 大型放射光施設(SPring-8)を利用して地球深部構造の解析に成功 -(プレスリリース)

公開日
2004年04月09日
  • BL10XU(高圧構造物性)
東京工業大学と海洋研究開発機構固体地球統合フロンティア研究システム(IFREE)は、高輝度光科学研究センターとの共同研究により、地球深部の核・マントル境界付近が新発見の鉱物ポスト・ペロブスカイトから成り立っていることを世界で初めて明らかにした。

平成16年4月9日
国立大学法人東京工業大学
独立行政法人海洋研究開発機構
財団法人高輝度光科学研究センター

 国立大学法人東京工業大学(学長 相澤 益男)と独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 加藤 康宏)固体地球統合フロンティア研究システム(IFREE、システム長 久城 育夫)は、財団法人高輝度光科学研究センター(理事長 吉良 爽)と共同で、超高温高圧状態で存在する地球深部物質の物理化学現象を探る研究を進め、核・マントル境界付近がポスト・ペロブスカイトという、新発見の鉱物から成り立っていることを、世界で初めて明らかにした。この研究成果については、サイエンス誌に掲載(*)された。それに先行して、2004年4月8日(米国時間:日本時間 2004年4月9日)に発行されるサイエンス誌オンライン版に「Science Express Reports」として掲載された。
(*)地球深部(核・マントル境界)の鉱物の結晶構造図が本誌の表紙を飾った。

(論文)
"Post-Perovskite Phase Transition in MgSiO3"
(日本語訳:MgSiO3におけるポスト・ペロブスカイト相転移)
Motohiko Murakami, Kei Hirose, Katsuyuki Kawamura, Nagayoshi Sata, and Yasuo Ohishi
Science 304 (5672), 855 - 858 (2004), published online 8 April 2004.

目的と背景
 地球の体積の約8割は、マントルと呼ばれる岩石圏である。地球の半径は約6400kmであるが、そのうち深さ2900kmまでがマントルにあたる(用語解説1.参照)。地球内部を伝わる地震波を解析する研究により、マントルは層構造をなしていることがわかっていた(用語解説2.および図1参照)。
 地球深部は超高温高圧の環境下にある。今までにも地球内部の高温高圧状態を再現する高温高圧実験により、地球内部の主要鉱物の物理化学的性質を解明するための研究が進められてきた。しかし、核とマントルの境界にあたるD"層と呼ばれる部分(図1参照)では、125万気圧2200℃以上に達し、そのような超高温高圧状態を人工的に作り出して実験を行うことは技術的に困難であった。このD"層はペロブスカイトという鉱物から成り立っていると長い間考えられてきたが、その検証はなされていなかった。

成果
 今回、国立大学法人東京工業大学理工学研究科と独立行政法人海洋研究開発機構固体地球統合フロンティア研究システム地球内部物質循環研究領域は、財団法人高輝度光科学研究センターと共同で、核・マントル境界の環境に相当する超高温高圧条件を発生させるために必要な技術開発を行いつつ(用語解説3.参照)、X線回折法(用語解説4.参照)を用いた極微小領域での観察実験を行い、地球内部物質の物性変化(相転移)(用語解説5.参照)の解明を進めてきた。その結果、D"層は、ポスト・ペロブスカイトという、新発見の鉱物から成り立っていることが明らかになった。このポスト・ペロブスカイトは、今回世界で初めて合成に成功した鉱物である。
 今回の成果により、地球内部の層構造を形成している鉱物種の変化がすべて明らかになった。高圧地球科学の分野では、1974年の、輝石(MgSiO3)組成ペロブスカイトの合成による、下部マントル構成鉱物解明以来の重要な発見と言えよう。


<参考図>

図1 地球内部の層構造、ついに全容解明
図1 地球内部の層構造、ついに全容解明

 


 

図2 超高温高圧下におけるX線による結晶構造解析
図2 超高温高圧下におけるX線による結晶構造解析

 


<用語解説>

    1.地球内部の構成
      地 表 か ら の 距 離 名   称 内                         容
      数km〜数十kmまで 地殻 堅い岩石からなる
      約2900kmまで マントル 岩石だが流動する性質を持つ。地球体積の83%
      約5100kmまで 外核 主として液体の鉄
      約6400km(地球の中心)まで 内核 主として固体の鉄
    2.マントルの層構造
     上から順に、上部マントル、遷移層、下部マントル、D"層とよばれている。その主要鉱物は以下の通りと考えられてきた。
     上部マントル、遷移層:かんらん石、スピネル
     下部マントル、D"層:ともにペロブスカイト
    3.超高温高圧条件を発生させるために必要な装置に関する技術開発
     「レーザー加熱式ダイヤモンドアンビルセル高圧発生装置」という、ブリリアントカットされた2つのダイヤモンドの先端同士を向き合わせて、その間に実験に用いる試料を挟んで加圧し、レーザー光を用いて加熱する(図2)。SPring-8高圧構造物性ビームラインBL10XUに設置された「レーザー加熱式ダイヤモンドアンビルセル高圧発生装置」内では、核・マントル境界の超高温高圧条件に相当する、約125万気圧2200℃以上を再現することに成功した。
    4.X線回折法
     鉱物、その他の結晶にX線を当て、散乱や回折の強度分布を測定することにより、結晶構造・物性などを調べるための手法。
     兵庫県播磨科学公園都市にある大型放射光施設(SPring-8)は、世界最高輝度のX線を発生させることができる。これは従来のX線発生装置から得られる光の明るさに比べおよそ1億倍も明るく、レーザー加熱式ダイアモンドアンビルセルに挟まれた極微量の試料からも回折X線を測定することができ、その物質変化をつきとめることができる。
    5.相転移
     ある範囲の条件下で安定に存在する一定の組成を持つ「相」が温度と圧力の変化に伴って、同一組成を保ったまま別の構造に変化すること。

 

<本研究に関する問い合わせ先>
国立大学法人東京工業大学
理工学研究科 地球惑星科学専攻:廣瀬 敬
電話:03-5734-2618
FAX:03-5734-3538

評価・広報課 広報・社会連携係:保坂
電話:03-5734-2975
FAX:03-5734-3661
ホームページ http://www.titech.ac.jp/home-j.html

独立行政法人海洋研究開発機構
固体地球統合フロンティア研究システム:巽 好幸
電話:046-867-9760
FAX:046-867-9625

総務部 普及・広報課:鷲尾、五町
電話:046-867-9066
FAX:046-867-9055
ホームページ http://www.jamstec.go.jp/

財団法人高輝度光科学研究センター
利用研究促進部門 I :大石 泰生
電話:0791-58-0832
FAX:0791-58-0830
ホームページ http://www.spring8.or.jp/j/

<SPring-8についての問い合わせ先>
財団法人高輝度光科学研究センター 広報室
電話:0791-58-2785
FAX:0791-58-2786
E-mail: kouhou@spring8.or.jp

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