大型放射光施設 SPring-8

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世界最強磁場での放射光X線実験に成功(プレスリリース)

公開日
2006年02月21日
  • BL22XU(JAEA 量子構造物性)
岡山大学、日本原子力研究開発機構、東北大学の共同研究グループは、SPring-8 のビームラインBL22XU において平成17年12月、放射光X 線実験における世界最高磁場記録を樹立した。

平成18年2月21日
岡山大学

 放射光X 線や中性子線などの量子ビーム(注1)と強い磁場の組み合わせは、新しい材料・物質研究の強力な道具として注目されており、そのための計測技術の開発には世界的な規模で競争が行われています。
 岡山大学などの共同研究グループは、SPring-8原子力機構 量子構造物性ビームラインBL22XU において平成17年12月、放射光X 線実験における世界最高磁場記録を樹立しました。この成果は、磁場発生用マグネットの小型化技術の追求により達成されました。従来、強い磁場の発生には大型装置が必要とされてきましたが、今回使用したマグネットは、体積および消費エネルギーが従来型の大型マグネットの約100 分の1 の親指サイズの超小型マグネットであり、しかも大型マグネットと同等の50 テスラ級の超強磁場が発生できる画期的なものです(図1)。これを用いることで、量子ビーム実験において従来の世界最高であった超電導磁石による世界最高値を3 倍も上回る51テスラ(注2)という強い磁場中での放射光X 線実験に初めて成功しました(図2)。
 今回の実験では、希土類元素を含む磁性体の価数揺動(注3)と呼ばれる現象をX 線を用いて直接観測し、磁場中での電子状態を初めて明らかにしました。この技術は、21世紀の新機能デバイスとして注目されているスピントロニクス材料(注4)の評価や原理の理解にも大きく貢献すると期待されます。
 本研究は、岡山大学、日本原子力研究開発機構、東北大学の共同研究であり、科学研究費補助金・特定領域研究「100 テスラ領域の強磁場スピン科学」の一貫として行われました。本研究成果の一部は、学術誌Journal of the Physical Society of Japan 75 (2006) の2 月号に掲載され、2006 年3 月に愛媛県松山市で開催される日本物理学会で発表予定です。

(論文)
"High Field X-ray Diffraction Study on a Magnetic-Field-Induced Valence Transition in YbInCu4"
Y. H. Matsuda, T. Inami, K. Ohwada, Y. Murata, H. Nojiri, Y. Murakami, H. Ohta, W. Zhang and K. Yoshimura
Journal of the Physical Society of Japan, Vol. 75 No. 2, February, 2006, 024710
Published February 10, 2006

 

fig1.jpg図1.冷凍機のインサートの先端に取り付けられたミニマグネット。実験中は測定試料とともにヘリウム温度まで冷却される。太さ0.7ミリメートルのAgCu線を使用したソレノイドコイルであり、外側をガラス繊維で補強してある。(そのため、写真では白っぽく見えている。)フランジはFRP製。右側は10円硬貨。

 

fig2.png図2.ミニコイルで発生させたパルス強磁場の波形。最大51テスラの磁場が発生されており、このとき必要としたエネルギーは約1.4キロジュール。磁場の持続時間は全体で0.8ミリ秒程度と短いが、SPring-8の放射光X線が高輝度であるため様々な実験が可能である。

<用語解説>

(注1)物質の量子化されたエネルギー状態を探査可能な光や粒子(中性子、電子、ミュー粒子など)を指向性を持たせてビーム状にしたものを指す。

(注2)テスラは磁場の強さを表す磁束密度の単位。地磁気は約10 万分の4 テスラであり、51 テスラはおよそ地磁気の125 万倍。

(注3)ユーロピウムやイッテルビウムなどの希土類元素を含む磁性体でしばしば見られる現象。希土類イオンの固体中での価数が不安定になり量子力学的に揺らいでいる状態で、様々な磁気的、電気的な異常を発現する原因となる事から盛んに研究されている。

(注4)電子の電荷だけではなくスピンを能動的に操作した新しいデバイスの総称。半導体と金属の両研究分野において開発が進められている。


<本研究に関する問い合わせ先>
岡山大学大学院自然科学研究科(理学部物理学科)
 助教授  松田 康弘
 TEL / Fax:086-251-7803

日本原子力研究開発機構 量子ビーム応用研究部門
X線量子構造研究グループ
 稲見 俊哉
 E-mail: inami@spring8.or.jp
 Tel:0791-58-2701/Fax:0791-58-2740

<SPring-8についての問い合わせ先>
(財)高輝度光科学研究センター
 広報室  原 雅弘
 E-mail:hara@spring8.or.jp
 Tel:0791-58-2785/Fax:0791-58-2786