大型放射光施設 SPring-8

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民間13社が大型放射光施設SPring-8専用ビームライン利用の契約を更新-契約更新による利用延長と設備更新により、産業界の放射光活用を一層加速-(プレスリリース)

公開日
2008年09月02日
  • BL16XU(サンビームID)
  • BL16B2(サンビームBM)
産業用専用ビームライン建設利用共同体(通称:サンビーム共同体、代表 飯島賢二、 以下通称を呼称)に参画する企業・グループ13社(企業12社及び1企業グループ)は、1998年以来10年間進めてきました大型放射光施設SPring-8の専用ビームライン利用実績及び今後の利用計画が評価されたため、2008年8月27日付けで、SPring-8を管理運営する財団法人高輝度光科学研究センターと、今後10年間の専用ビームラインの設置・利用に関する契約を更新することとなりました。

2008年9月2日
産業用専用ビームライン建設利用共同体
参加13企業・グループ
財団法人高輝度光科学研究センター

 産業用専用ビームライン建設利用共同体(通称:サンビーム共同体、代表 飯島賢二、 以下通称を呼称)に参画する企業・グループ13社(企業12社及び1企業グループ)※1は、1998年以来10年間進めてきました大型放射光施設SPring-8※2の専用ビームライン利用実績及び今後の利用計画が評価されたため、2008年8月27日付けで、SPring-8を管理運営する財団法人高輝度光科学研究センター(理事長 吉良爽、以下「JASRI」)と、今後10年間の専用ビームラインの設置・利用に関する契約を更新することとなりました。
 サンビーム共同体の設備を用いて得られた知見は、先端半導体デバイス、高密度磁気ディスク、レーザーダイオード、光ファイバ、高耐食鋼、自動車用触媒、燃料電池といった製品の開発や製造プロセス改善に適用され、日本における放射光の産業利用を10年間牽引し発展させてきました。そして今後10年間、継続利用するにあたり、サンビーム共同体の構成各社は総額で約3億2千万円を拠出し大幅な設備更新を行いました。本更新設備は2008年度後期利用期間※3が始まる、今年秋より本格的な利用が開始され、これまでに実施できなかった超希薄成分の分析、微小部分析、リアルタイム観察や実製品の直接観察などを実施していく予定です。すでに、直径300ミリウエハ※4に作製された、厚さが1ナノメートルのゲート絶縁膜※5構造の精密測定が、世界で初めて、可能となっています。このような最先端技術により、日本のものづくり技術を発展させていきます。
 今回の設備更新の内容と最近の利用成果は第5回SPring-8産業利用報告会」(9月18~19日、日本科学未来館(東京・お台場)にて開催)※6をはじめとして各種学会や論文誌で報告を今後継続的に行ってゆく予定です。

1. 経緯
 大型放射光施設SPring-8の高輝度ビームを各種産業用材料の開発に活用するため、産業用専用ビームライン建設利用共同体では、産業界専用ビームライン(BL16XUBL16B2)を設置し、利用・運営しております。サンビーム共同体は企業グループ13社(企業12社及び電力グループ)で構成する任意団体であり、13社相互に協定書を締結し、事業の実施に必要な資金は13企業グループが均等に負担しビームラインの所有権、利用権も均等に保有しています。また、事業実施に伴う義務と責任も13企業グループが平等に負担しています。そして、サンビーム共同体は1998年8月に、JASRIとの間で10年間の専用ビームライン利用の契約を締結して、大型放射光施設SPring-8の世界最高性能の放射光を利用し、電機、鉄鋼、金属、輸送、電力といった我が国の基幹産業における基盤技術として、その産業利用の促進を図り、材料・部品分野の新技術創成を進めてきました。

2. 契約の更新について
 2008年8月の契約期間満了に先立ち、サンビーム共同体ではこれまでの10年間の成果を報告するとともに、今後10年間の研究計画について、JASRIの審査を受けました。その結果、これまでの実績が高く評価され、また次期計画の意義が認められました。そこでこのたび、大規模な設備更新の実施と今後10年間のビームライン利用の契約更新を行い、1.項の所期の目的に沿って研究開発をさらに加速していく運びとなりました。

3. 設備更新の現状と、期待される今後の成果
 契約更新とともに、約3億2千万円を掛けて11箇所に上る大幅な設備の改良・更新を行い、ビーム強度を一桁向上させることができました。そして、更に高度な測定を、より実用的な試料に対して適用することが可能となりました。具体的な適用例を以下に示します。

図1. 直径300mmのウェハを装着した状態の新しい8軸X線回折装置 図1. 直径300mmのウェハを装着した状態の新しい8軸X線回折装置

(1) 非晶質材料から結晶までの広範囲にわたる材料の構造解析に有効であるX線回折・散乱測定では、試料ステージの駆動軸を4軸から8軸と増加させて測定の自由度を向上させるとともに、測定時間を半減させることができました。また、直径300ミリまでのウェハが搭載できる大型試料ステージを採用することにより、テストピースや切出した試料ではなく実際の製品での評価が可能となりました。その結果、実際の半導体プロセスで用いられる直径300ミリのシリコンウェハ上に形成された厚さ1ナノメートルのシリコン酸化膜の表面/界面構造を世界最高の精度で解析することができました。これは、反射率測定において、従来は10桁が限界であった強度変化の測定を12桁まで測定することを可能としたことでより精密な解析を実現したものです。
(2) 蛍光X線分析においては、より希薄な成分を分析できるようにするとともに、直径200ミリまでのウエハの全面に対して、10ミクロンの分解能で元素の分布を測定することが可能となりました。さらに、XAFS※7法による状態評価が実施可能となり、組成だけではなくその存在状態も明らかにすることを可能としています。今後はこれらの機能を用いて、各種デバイスにおける問題の解決や、六価クロムを含まないクロムめっき膜など地球環境にやさしい材料・製品の開発に活用する予定です。
(3) マイクロビーム技術に関しては、X線回折機構を付加し、300ナノメートル以下の大きさに絞ったビームのX線強度を1桁以上向上させたことにより、微小領域の構造解析が可能になりました。ハードディスクの大容量化のための磁気ヘッドの更なるマイクロ化、高性能化を図るための材料やプロセスの解析に活用してゆきます。また今後はこれまでの適用材料以外にも電子・光半導体材料や電池材料など種々の次世代材料開発に活用する予定です。


《参考資料》

◆ サンビーム共同体の適用分野・研究内容
  広い波長範囲で世界最高輝度を誇るSPring-8放射光は、光源輝度が従来のX線発生装置に比べ1億倍の明るさを有するため、従来不可能であった超薄膜物質や微小領域の微細構造解析、微量元素分析が可能となります。サンビーム共同体では、最先端の情報通信・ナノテクノロジー技術分野、地球に優しい環境・エネルギー技術の分野など、多方面の産業分野にわたる研究開発に活用し、利用を推進しています。以下に、大まかな適用分野と研究内容を示します。
    産業技術への適用例:
      環境・エネルギー(環境負荷低減、新/省エネルギー)
 ◆ 燃料電池・二次電池、排気ガス用触媒  ◆ 防錆・高強度材料、グリーン材料
情報通信・ナノテクノロジー(高速・大容量、小型・軽量)
 ◆ 小型・高性能半導体デバイス      ◆ 大容量メモリ、光通信
    研究内容の例:
       ◆ 先端材料の原子・電子構造解析  ◆ ナノ材料・微量元素分析
 ◆ 極限条件・環境下における材料物性評価など
  利用分野
利用対象分野の割合はBL16XUでは半導体が最多ですが、BL16B2ではここ数年、電池、触媒・燃料電池および素材の割合が増加傾向しており、全体として利用分野の広範化が進んでいます (図2参照)。

図2 図2

◆ サンビーム共同体の今までの主な成果
  サンビーム共同体では、従来より、各種学会論文誌およびサンビーム研究発表会、産業利用報告会において報告しています。以下、代表的な研究成果を紹介します。
 
(a)
リチウムイオン2次電池は、家庭用電化製品から自動車の駆動源としてまで、高性能小型・軽量の二次電池としてその応用に期待が掛かっている。そして、リチウムイオン2次電池電極材料(図3)の開発にとってXAFSは不可欠な手法となりつつあり、積極的に利用されている。正極材料のひとつであるLiNi0.8Co0.15Al0.05O2図4)はLiCoO2よりも高容量でかつLiNiO2の弱点である熱不安定性を改良した材料であるが、長期の耐久性には課題が残る。そこで、未耐久、繰り返し充放電試験後(60℃、1000回)、満充電保存後(60℃、1年間)の3種類の試料を準備し、転換電子収量法を用いた表面敏感XAFS法と通常の透過XAFS法とを併用して劣化機構の解明を目指した。結果は、図5に示すように、同じLi量であっても、繰り返し充放電試験後・満充電保存後では、未耐久試料よりもNi価数(Li量変化に起因する電荷変動を補償)が低下し、この傾向は表面でより顕著であることがわかり、電池電極材料の性能向上に役立っている。
図3 Li イオン電池の原理 図3 Li イオン電池の原理
図4 正極 LiNi0.8Co0.15Al0.05O2 図4 正極 LiNi0.8Co0.15Al0.05O2
図5 Li1-XNi0.8Co0.15Al0.05O2中のXとNi価数との相関。 (実験値をもとに、最小二乗法で得た直線を示したもの。) 図5 Li1-XNi0.8Co0.15Al0.05O2中のXとNi価数との相関。 (実験値をもとに、最小二乗法で得た直線を示したもの。)
電極の構造やその変化が分かれば、長寿命やハイパワーな電池の開発に繋がる。
 (参考論文: T. Nonaka et al. : J. Electrochemical Soc. 154(2007) A353-358.)
 
(b)
RoHS 規制として知られる欧州規格では、電子部品などの防錆めっきとして広く利用されるクロメート膜(図6)中の六価クロムの含有量の測定が必須となっている。しかし、規定されている湿式化学分析法には抽出効率や化学状態変化の恐れなど定量性への懸念があり、XAFS 法を利用した非破壊定量分析法が開発された。本手法は、図7に示したように、Cr のK 吸収端に現れるプリエッジピークが六価クロムに特有のものであることを利用した手法である。さらに斜入射測定で入射角度依存性を解析することでめっき膜中の深さ方向分析も可能であることが示されている。これらにより、RoHS規制に抵触しない製品提供が可能となっている。
図6 クロメート膜 図6 クロメート膜
図7 SPring-8放射光のクロメート膜への適用 図7 SPring-8放射光のクロメート膜への適用
(参考:2007年9月14日,株式会社富士通研究所 記者発表,「世界初!さび止め皮膜中の6価クロムの高精度検出に成功」~グリーン調達における分析の信頼度を向上~)
 
©
高輝度放射光を利用した蛍光分析装置および試料濃縮技術を開発し、微量元素の検出感度を従来の約100倍に向上させることに成功した。開発した分析法では、高エネルギー分解能・低バックグラウンドの波長分散全反射蛍光X線分析装置を産業用専用ビームライン建設利用共同体のもとで製作した(図8)。さらに検出感度向上のため、ウェハ表面をフッ酸で溶かし、広い面積の微量金属元素をX線の照射範囲に集める濃縮法を開発した。従来より、約100倍高感度の、ウェハ表面100μm2あたり銅4個、ニッケル4個という、世界最高の検出感度を達成した。本技術を用いると、ゲート幅50nmのMOSデバイスなどの次世代半導体デバイスを開発、量産する際に不可欠な超微量元素分析が可能になった。これらは半導体工場での不純物汚染防止の取り組みや、各製造プロセスでの歩留まり向上に活用されている。
(2001年9月11日,株式会社富士通研究所,株式会社東芝,松下電器産業株式会社,住友電気工業株式会社 4社共同新聞発表,「SPring-8放射光で半導体ウェハの微量元素を世界最高感度で検出」)
http://pr.fujitsu.com/jp/news/2001/09/11-2.html
http://www.toshiba.co.jp/about/press/2001_09/pr_j1102.htm
http://www.itmedia.co.jp/news/bursts/0109/12/spring8.html
図8 開発した蛍光分析装置 図8 開発した蛍光分析装置
       


《 用語解説 》

※1 参加13企業・グループ

◆川崎重工業株式会社
◆株式会社神戸製鋼所
◆住友電気工業株式会社
◆ソニー株式会社
◆電力グループ(関西電力株式会社、財団法人電力中央研究所)
◆株式会社東芝
◆株式会社豊田中央研究所
◆日亜化学工業株式会社
◆日本電気株式会社
◆株式会社日立製作所
◆株式会社富士通研究所
◆松下電器産業株式会社
◆三菱電機株式会社

※2 大型放射光施設SPring-8
 独立行政法人理化学研究所が所有する、兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高の放射光を生み出す施設で、その管理運営は高輝度光科学研究センターが行っている。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8GeVに由来。放射光(シンクロトロン放射光)とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、細く強力な電磁波のこと。 SPring-8では、遠赤外から可視光線、軟X線を経て硬X線に至る幅広い波長域で放射光を得ることができるため、原子核の研究からナノテクノロジー、バイオテクノロジー、産業利用や科学捜査まで幅広い研究が行われている。SPring-8は日本の先端科学・技術を支える高度先端科学施設として、日本国内外の大学・研究所・企業から年間1万4,000人以上の研究者が利用。

※3 2008年度後期利用期間
 SPring-8のユーザータイム(放射光利用期間)は基本的に1年間を2分割してスケジュールされており、2008年度前期は2008年4月5日から8月1日、2008年度後期は2008年10月8日から2009年3月12日。

※4 直径300ミリウエハ
 現在、量産されている最も大きなウェハサイズであり、一度の製造で多くの半導体チップを作成できるので量産効果が大きい。

※5 厚さが1ナノメートルのゲート絶縁膜
 ゲート絶縁膜は、MOSトランジスタの電流を調整するための電極(ゲート電極)の絶縁層のための薄膜。 1ナノメートル厚は、現在利用されている膜厚で最も薄い膜厚。

※6 第5回SPring-8産業利用報告会
 詳細な開催案内は下記URLを参照
 http://support.spring8.or.jp/event/sangyo_080918_19.html

※7 XAFS
 X-ray Absorption Fine Structureのそれぞれ頭文字をとった略称で、日本語ではX線吸収微細構造と呼ぶ。物質にX線を照射すると、物質中の原子核や電子の様々な運動と相互作用して入射X線の一部が物質に吸収されエネルギーを失う。照射するX線のエネルギーを連続的に変化させ、物質によるX線の吸収度を測定することにより、(1)隣接原子種(2)原子間距離(3)配位数など中心原子周りの構造の情報が得られる。


(お問い合わせ)
(サンビーム共同体に関すること)
 産業用専用ビームライン建設利用共同体
  合同部会長 尾崎伸司
  (所属 松下電器産業株式会社)
   TEL:050-3587-0766 FAX:06-6906-0244
   E-mail : mail1

(SPring-8に関すること)
 財団法人高輝度光科学研究センター 広報室
  TEL:0791-58-2785 FAX:0791-58-2786
  E-mail:kouhou@spring8.or.jp